最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1358号 判決 1949年8月02日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人大橋茹同斎藤寿の上告趣意は末尾に添えた別紙記載の通りである。
原審が所論聽取書を証拠としたこと及び原審が公判廷で証人訊問の請求のあった高山竜雄、塚田慶治の証拠調を不必要として却下しことは所論の通りである。しかし、第一審公判廷においては右両名の所論聽取書について証拠調がされていたこと、また右高山竜雄並に塚田慶治は弁護人の申請で証人として訊問されていたことは記録上明らかであるから、被告人に対しては右聽取書につきこれらの供述者を訊問する機会がすでに與えられていたのである。かくの如く一度被告人に訊問の機会が與えられた書類は、刑訴應急措置法第一二條第一項に規定する書類の中に含まれないものと解すべきである。(昭和二三年(れ)第七一号同年六月一〇日当裁判所第一小法廷判決、昭和二三年(れ)第六〇三号同二四年四月六日当裁判所大法廷判決参照)されば、原審が右聽取書を証拠に採用したことは刑訴應急措置法第一二條第一項に違反するものではないから、論旨は理由がない。
よって旧刑訴第四四六條に從い主文の通り判決する。
以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)